出会った忘れられない人々~一人目~

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福祉の世界は病気や問題を抱えた様々な人達と出会いの場です。

今回からシリーズ化(不定期)のエッセイとして、これまで私がお会いした、思い出に残っている方々の思い出を書いてみたいと思います。なお登場人物は仮名でフィクションです。

第1幕:バカヤロー!!

このエピソードは老健(介護老人保健施設)時代の話になります。


プロフィール:
・Aさん 女性 当時80代後半 
・既往歴 レビー小体型認知症
・キャラクター いつも怒っている 時々素の自分に返ると穏やかな優しい人に

私がこの業界に入って1年を過ぎた頃、配属先が認知症棟でした。定員は40名。いずれも認知症を発症しています。専門学校を卒業後より、実際の業務は煩雑でとにかく
①業務を覚える
②入所者の顔、病歴、障害の程度、ADLの把握
【ADL=Activities of Daily Living:(日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、
「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作のこと)
(ADL=Activities of Daily Living)
③入所者の個別の個人情報の把握など…
これら以外にもこまごまとしたことが有ります。


ファーストインプレッション

Aさんは他の入所者と一緒のテーブルとは別の一人用のテーブルにいました。
他の職員に何故このような対応をしているか聞いてみると
「見ていれば分かるよ」とのこと、しばらく業務の合間にAさんの様子を見ることに。

静かなフロア(食事を摂ったりする食堂を兼ねた広場)から突然
「バカヤロー!!」と叫び声が聞こえてくる。
”なんだ!!”と振り返ると、Aさんが叫びながら本人が座っている机をバシバシ叩き始めている。
認知症はアルツハイマー型、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など様々有ります。

Aさんの表情はまるで鬼の様に目が吊り上がり、彼女の風体からは似つかわしくない程の怒りの暗黒パワーが立ち込めています。

そばに寄ると、テーブルを叩く手は止まらず、「バカヤロー!!」 「バカヤロー!!」叫び続けています。
”おおーこれは認知症ワールド!!”
これまで学生時代の実習先の患者や入所者には居なかったタイプの方。

本人のフェイスシート(個人情報が詰まっている用紙)を読むと

・○○県出身。
・兄弟姉妹5人の長女。
・専業主婦でとにかくご主人や本人の子供、兄弟の子供(甥や姪)、近所の子供達にも優しいおばさんとして過ごされていた。

病気の発症は今から5年前。きっかけは物忘れが多くなり、温和な性格が突如怒りが止まらなくなることが増えて来て、Aさんの同居の長女が掛かりつけのクリニックに受診し、認知症の疑い有りと診断した。その時Aさん本人には診断名を長女は告げずクリニックを出たそうです。

暫くして、Aさんの症状は日に日に進行します。

Aさんの長女は別の病院を受診するが、やはり認知症の診断。これまでのことも有り、ここで理解したそうです。
それから、病院の主治医から 介護サービスの利用を勧められます。
要介護などが付いたらケアマネ(介護支援専門員)を付けて、自宅で暮らすか施設に入るかなど相談してみてはと助言を受けます。
などなくしてAさんの住んでいる区役所に要介護認定を申請し、数日後区役所からの担当者が自宅を訪れ要介護認定を受け、更に数か月後に要介護2の判定を受けます。

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私が初めてお会いしたのはAさんは入所2年位経過していました。
専門学校卒業後の初めての職場。そんな初の実戦経験として、様々な入所者がいた中でもAさんは今でも記憶に残っている、受けた方でした。

🌈ここで福祉一口メモ~老人保健施設の役割について~

さて福祉サービスは色々有ります。このコラム内に出てきた老人保健施設について簡単に説明致します。

病気により、入院して手術を受けて治療を受けつつ、リハビリを受けながら在宅復帰を目指しますが
入院期間には限度があり、一回目の入院から次の病院へ転院となります。そして2回目の入院にも期限が有り、そこで更に別の病院に転院するか、ここで登場するのが老人保健施設(老健)になります。

老健には病院の機能(施設長はDr)やリハビリ施設の機能も有ります。
更に老健によっては次の様なサービスや利用方法などが有ります。

🟢ショートステイ(老健で実施している場合)

  • 在宅で介護者が急な用事で、要介護者が自宅で見られない時
  • 介護人が疲れてしまったなど(レスパイトケア)
  • 冬季間だけ看てもらう期間限定の利用など

※利用期間は介護保険利用した際、最短で1日から最長で1ヶ月以内。それ以上の利用は実費負担となり、最大は90日間が目安となります。

🟢デイケア(老健で実施している場合)

  • 主治医からの勧められた時
  • 老健を退所して在宅生活において、筋力、認知力低下防止から、リハビリ、学習療法などのプログラムに特化したサービス提供。(※今まで老健を利用していなくても利用は可能です)
  • 食事(栄養指導)、口腔機能の特化リハビリ(デイケアによりけり)など

老健は在宅復帰を目指すための中継施設の意味合いが強いですが、近年は特養など他の福祉施設の入所,入居までの一時的な生活を支援することや病院では出来なくなってきている療養生活の受け皿にもなっていることも有り、施設によっては看取りも行っている施設もあるようです。

いつもながら、一口メモにしては量多すぎです😅

さて、Aさんの話に戻ります。

怒りの根源とは?

Aさんは在宅復帰ではなく、特別養護老人ホーム(特養)の入所を目指していました。このように在宅(自宅)ではなく特養を目指す家族は多いです。老健の利用はそれぞれです。

<自宅に戻れない理由>

  1. 認知症により、既に自宅では介護が難しい
  2. 自宅の生活環境が介護しにくいため難しい
  3. マンパワー(介護する人)いないため難しい
  4. 当人と家族の関係性で同居が難しい…など

Aさんは、家族の言動などから推察すると4に該当するようでした。認知症になる前は
”本当に優しい人でした”
家族の話…

認知症は、それまでその当人が築き上げてきたものを、きれいさっぱり流すほどの力があります
それは時として
”こんな人ではなかったのー😥” 
”あんなに立派な父だったのに…”
枚挙にいとまないです。

穏やかな時間は午前中だったのかと思い出します。起床から午前中は内服している薬の薬効が利いているからか?それとも脳がさほど機能していないためか?色々ですが、静かな時間帯でした。

昼食前後よりAさんの行動はじまります。
テーブル叩きからの
「バカヤロー!!」「バカヤロー!!」の連呼。

本人のそばに寄り添うと、やや静かになりますが、終始そばにいることは出来ませんので、すぐに暴言や叩きがずーっと続きます。
叩いている手のひらは赤くなり、テーブルにクッションなどを置いてみますが、それを床にぶっ飛ばし何もないテーブルを叩きながら、叫ぶのです。

ある日の様子は、いつもの「バカヤロー!!」から
「ドロボー!」「ドロボー!」にセリフが変わっていました🤭

丁度面会に来ていた娘さんに状況を見てもらい、言動についての意味を聞いてみると、かつて自宅に強盗が入って散々な目に遭ったことを話されました。
何かのきっかけでスイッチが入ったのでしょうが、当時被害を受けた後暫くして犯人が逮捕されました。犯人の実刑が決まるが結局補償は無かったことを娘さんは振り返っています。

~考察~

認知症を大きく見ると以下の様に見ることが出来ます。

中核症状: 記憶障害、実行機能障害、失行失認失語、見当識障害
周辺症状(BPSD):本人の性格や環境に由来し、環境、心理、身体要因から誘発される行動などを表します。

例:徘徊、暴力、異食、抑うつ、睡眠障害、幻視・幻聴などに分けられます。

これらを踏まえて、Aさんの一連の言動は過去における怒りがトリガーになっていると推測されます。

健常者は過去の怒りや悲しみ、苦しみなどの負の感情を押し殺し、自分の心の奥底へ隠す人が多いです。認知症に罹患すると、それらの行動が出来なくなり、これまで抱えてきた負の感情が突如思い出されるようです。

負の感情は、火山のマグマの如く長年蓄積され、特に怒りはかなりのエネルギーを伴っています。
これまで会ってきた方々の中にもAさんと同様な方は数知れずおりました。

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Aさんのその後

いつも怒っているAさんはその後も怒りまくっています。
介護には時として限界がやってきます。限界の見極めは、定期的に行われるカンファンスと呼ばれる職員間の会議にて行われます。

老健は、医師を筆頭に看護師、介護士、リハ職員、栄養士、相談職、ケアマネなど複数の職種の人達が働いております。会議は定期のものもあれば、緊急性を要するものなど様々。
また入所継続検討会議(呼び名は施設によって異なります)にて、入所者の現状を踏まえた対応について話し合います。

結論から
現在の服薬内容では、攻撃性を含めた精神状況はよろしくないと医療、福祉サイドより上がり、服薬内容の見直しが決まります。後日会議の決定事項について、家族に報告され変更点の同意を求められます。

変更は向精神薬の増量。それまでも各種向精神薬は内服していますが、更なる増量。
(どんだけー強い精神力!!😨)その後は徐々に静かになり、2週間後にはすっかり日中も居眠りするようになりました。
(恐るべし薬の😑)

しばらくして、特別養護老人ホーム(特養)への入所が決まり、Aさんとはあっけない別れになります。老健はこの様に、病院から在宅に復帰するためのワンクッション的な施設。このような方々との出会いと分かれが日々有ります。

最後に
人はその人生において、出来なかったことや表すことが出来なかった感情、思いを心の奥底にしまって、やがて旅立ちます。認知症はその感情を再度引き揚げて行くことが有ります。その言動に家族は驚き、嘆き、恥ずかしいと思う反面、そのようなことを(家族には話したことが無いことなど)考えていたのかと話されます。 

やり残した、こと有りませんか?
思い悩んだこと、口に出せずに…

そんなことを介護の現場で見て感じたことを綴ります。

今回はここまでです。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

次の記事で会いましょう。


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