忘れらない入居者、利用車がこれまで沢山います。
今回は二人目です。それではお付き合いくださいね。
街の大将
私がデイサービスで働いていた時に出会った方です。
仮にAさんとします。
現在は夫婦二人でお住い。かつては事業を立ち上げて、自身の病気が基で商売から身を引いた経緯が有ります。
ファーストインプレッション
豪快な方でした。一見こわもてで、口調もべらんめえ。初めて会った時もどこか近寄り難く、出来ればこの先も関わらない方がいい方かと思いました。
私が働いていたデイサービスは小規模タイプ。一日の定員が10名まで。自然と職場もこじんまりとした場所。以前勤めていたデイサービスとは利用者の数も違い、少数なので仕事が楽になるかと思いきや、その反対で少数の方がそれだけ人間関係が密になります。
Aさんはデイサービスでは一目置く存在。だけど他の利用者には好かれる。その理由が知りたくてAさんを観察をします。
確かに容姿、口調共に怖い所があるのですが、よくよくAさんの言動を見聞きすると、他の利用者に対する気遣いが細かい。
~ある日の様子~
Aさん:「よー!!○○さん今日も元気だね!!」
「よー!!□□さん、昨日教えてもらった料理のことあれ勉強になったよ!!」
などなど、話す相手に合わせてその時の表情や声色、様子を察して的確に声掛けを行っています。
相手もその小気味いい話し振りに、すっかり気分が良くなり、次第と会話が弾みます。
ある時は、認知症が深いCさんに対しては、
「よー!!Cさん今日も元気そうだね。昨日おとうさんといいことでも有ったのかい…」
Cさんはほとんど話さず無表情気味ですが、Aさんの言葉掛けには何故か表情が穏やかになり、言葉は出ませんが反応を示します。

Aさんのプロフィール
~フェイスシートより~
・海沿いの町に生まれ
・勉強が出来て、大学卒後地元に戻り団体職員に
・実家の家業を継ぐため退職し、家業を盛り上げていく
・ひょんなことから、父親と喧嘩になり家業から手を引き、自分で商売を始める
・その頃に結婚し、お子さんを設ける
・商売は軌道に乗り、いつの間にか街の中で手広く行う
・自身の病気のため、手がけた商売をたたみ、隣町に引っ越し今に至る
商売が最高潮の頃、持ち前の好奇心から料理店を開業。独学でメキメキと頭角を現していく。
その頃の話が、本人の中で一番輝いていた様子。また様々な経験もこの頃多く有ったようです。
さりげない一言から
そんなAさんと接し、さほど時間が立たないある時、私はいつものように入浴介助を行っていました。
当時のデイサービス(以降デイ)は家庭のユニットバスを少しだけ大きくしたもの。
車いすのAさんは自分の車いすから、入浴用の車いすへ乗り換えます。
大きなユニットバスだからと言っても車いすのAさん(かなり恰幅がいい)と二人で浴室に入ると、
それだけで狭くなります。いつも通り体洗いから、頭洗いそして湯舟へと浸かる一連の流れを行う。
湯船でゆったりと浸かっているAさん。自宅にはお風呂は有りますが、車いすは使えない仕様。
(賃貸住宅、狭いユニットバス、まーそうでしょうね)
入浴は自宅で出来ないため、デイの利用目的でも有ります。
いつも通りAさんが気持ちよさげに入浴していると
Aさん:「よー○○(これ私の名前)お前頑張っているな!!」とさりげなく話される。
私は”え!”と使っていた使用済みのタオルなどの後片付けをしていて、Aさんの表情は見ていません。
当時働いていたデイは私が初めて生活相談員として赴任したところ。
今当時を振り返るとこの時期は色々有りました。
・様々な利用者との関り
・不慣れな業務
・職員間との軋轢…
結構表情には出さないでいたつもりでしたが、しっかりAさんには見抜かれていました。
私:「そんなことないですよ!やれるだけをしています」
Aさん:「そうか!…」
しばらく、世間話をしていてお風呂から上がるタイミング。上がり湯を掛けて、隣の脱衣所着替えの介助をしていました。
すると何だか、はらっとこみあげてくるものを私は感じていました。
”何だーこの感覚”
気が付けば嗚咽がこみあげていたのでした。赴任後たいして人から評価されず、淡々と日常の業務をこなしながら時間が過ぎていく中、Aさんはこれまでの私の行動をじーっと見ていたのでした。
Aさん:「なー○○!お前は気を使い過ぎているぞ!そんなんなら、倒れてしまうぞ。もっと力抜け…焦らなくてもいいからなー」
この言葉でそれまで辛かった、苦しかった、嫌だった出来事や思いが走馬灯のように現れ、入浴介助で暑くなっていたのか?Aさんの言葉のせいか、私の目から流れ落ちるものを止めるのが出来なかったのでした。
🌈人生は捨てたものではないなー🌈
今思い出しても恥ずかしい体験でしたが、初めての職場、新たな業務に就く、新しい人間関係などこれまでに無かった緊張やストレスを引き起こします。元来メンタル打たれ弱い私はこの様な状況下で一人もがいていたのかもしれませんでした。
しかし、見てくれている人はAさんの様にいるのだと感じた瞬間でした。

介護の仕事を通して感じること
これまで、いろいろな部署で仕事をして様々な入居者、利用者、入所者などから多くの声を掛けられました。
・心に響くもの
・心を折られるもの
・悔しかったもの
・嬉しかったもの…
人はやはり誰かによって生かされています
きっと、福祉全般に言えるのかと思いますが、一見私は介護する側で、Aさんは受ける側。別に差別やマウンティングをしているつもりはなく、仕事として介護をしていた訳ですが、いつの間に私の中で驕りや傲慢さが有ったのかと思いました。
対人援助はさもすれば、この様な状況に陥りやすいのだと。
しかし、この時の私の心情はAさんの一言によって変ったのです。
他者に対してもっと謙虚に、そしてやさしくしようと。何だか仕事を始めた頃の純真な気持ちが思い返されました。
”やはりこの仕事していて良かった!!”
仕事は楽しいよりはどちらかと言うと、理不尽なものだったり腹が立ったり、悔しく、上手く出来ない自分に対して無力感を感じ、次第に自分が本当にちっぽけに感じれます。
そんなものですが、人が仕事を通じて学ぶところは更に多く有ると感じます。それは人間関係、責任、謙虚さ、信頼など多岐に渡ると思います。
仕事≠人生
ではないですが、人生の多く時間を費やす仕事を上手く付き合うと、よりよい人生を送れるのは明らかだと感じます。
それから私とAさんの距離は縮まり、仕事も少しずつ上手く回り始めました。
人からの何気ない言葉は時として、その後の人生も変えてしまうのだと思った出来事でした。

関わりあう中で
小規模デイは、利用者数が少ないため職員の数も少なく、故に一人一人の職員の力量がとても試されます。
・話が苦手だけど、手先が器用でモノ作りが得意な職員
・いつもお調子者だけど、ここぞと思う時に頼りになる職員
・何だか言動に棘があるが、利用者には何故か人気がある職員…
私は頼りない生活相談員でした。けれども、目の前の仕事をコツコツと一つずつこなしながら日々利用者や職員と向き合っていました。そして、利用者、職員のそれぞれが持つ特性を考えて接し、今まで以上の気付きや反応を得るようになってきました。
人は知らず知らずのうちに壁を作ります。何も悪くはなく本能からです。
自分を守る。他者も同じ壁を築きます。壁をいかにして低くし、ゆくゆくは取っ払えればと考えます。時間が掛かれどやはり信頼関係を築くのが最良だと感じます。
Aさんはマイペースな方です。独自の世界観を持っていて、デイの利用におけるサービスはもっぱら食事、送迎、食事、入浴がメインでした。
その後私との関係性が良くなるにつれ、嫌いで有った運動などにも参加してくれるようになりました。
デイを利用するに当たり、介護計画書を作成しなければなりません。
これはケアマネが作っているケアプランとリンクするものです。
利用者本人の要望や課題を当人、家族そしてサービス提供者と協議、作成し同意後実施されるサービス内容。実施後は定期的な見直し、修正、変更、終了など評価を行い、繰り返し運用し利用者の現状を見ながらサービスを進めていきます。
ケアマネも沢山の利用者を抱えています。一人のケアマネは40名前後担当します。その中では自分との相性の良い方、悪い方がいます。
Aさんはケアマネからは対応が難しい人とされていたようですが、私との関係性が良くなるとケアマネとの付き合い方にも変化が有ったようです。
(ここでは詳細は省きます😁)
私は利用者に対して、私的な情報発信は極力しないようにしています。これはサービスにおいて中立性を保ちたいからです。また特定の利用者に対して、偏った思いや行いをしない様、自分の中で決めたルールでも有ります。
これは今の職場でも同じです。相談職は特に家族間や本人からの私的な願いが多く寄せられます。
ただ、私も人間です。これまでAさんの様な方が沢山いました。その度なるべく表立って自分の感情を見せないようにしていますが、その方々からの生き様などは常に気に掛け参考にさせてもらっています。

介護は学ぶことが多い
今回はAさんとの出会いを綴ってみました。私がデイを去る時当時の利用者の方々から様々な言葉を頂きました。
激励、寂しさ、優しい言葉、苦情😅など…
それまで築き上げてきた関係性が一旦終了します。ただ、私の中ではこうして今なお心の中に在るのです。
高齢な方々なので、その後風の噂だとデイを止めた方。亡くなる方など様々です。一かけがえないものないものでした。
私の好きな言葉に
一期一会が有ります。
これは茶道のもてなしの言葉です。この言葉は今の私にとって、とても大切な言葉です。介護を仕事に決めた時から、きっとたどり着く境地はこの言葉なのかと感じます。
介護は当事者の最終ステージになります。それまで出来ていた行動が出来なくなり、持っていたものを手放す時期です。
人の一生はその最期まで学びなのかと感じます。
なんらかの病気、障碍を得て、更に人間関係などしがらみの中で生きて行きます。その場面毎に学びは有ります。人生をやり切った方は素晴らしいです。私もそうなりたいですね。
介護を通して、”人とは何か?”
これをこれからも見続けていきたいと思います。
きっと私には知らない世界を生きてこられ、そこで得た知識や経験を出来る限り本人やご家族から聞き取り、日々接する中で学んでいきたいと思います。
当たり前ですが、同じ人は一人としていません。各自が紡いできた人生はまるで
喜劇?悲劇?…
いずれにしてもドラマチックな映画の様に感じます。
今認知症介護でグループホームで働いています。部署が変われど、人との関りはこれからも私がこの仕事を続ける限り続きます。
そうした方々との思い出をこれからも綴っていけたらと思います。
今回最後に現在のAさんについて
今なお、同じデイを元気に通っているようです。
またあの時の様に
デイサービスの扉を開けて入ったら、すぐ近くにAさんは座っています。
利用している面々は変われど、いつもAさんがデイの中心です。
賑やかな会話、笑い声、時には職員をからかい、他の利用者を笑わすユーモアとも毒舌とも取れる言葉の数々。
そしてこわもての容姿から繰り出される
「おおー○○!元気だったか? お前もちっとはマシになったようだなー」
と今にも聞こえて来そうです。
おしまい
今回はここまでです。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次の記事で会いましょう。
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